curtain call encore

推しのお芝居のお話をしたいだけ

「まさに堕ちるにふさわしい愛」/『天使のはかりごと』

 

〝 天使の仕事 バタフライエフェクト

  小さなきっかけで 大きな効果 〟

 

この作品で最初に歌われる曲にあるこの歌詞。

私から見たこの作品も、まさにバタフライエフェクトだった。

 

突然のさらっとした告知。出演者は二人。

「観劇」から「観」の要素が除かれ、ただ二つの耳で愉しむ「言劇」。

 

それでいて、この衝撃。

何?????何これ??????????

 

ふわふわ、きらきら、そんな擬音が似合う〈天使〉をテーマに掲げているにしては、なんだかおどろおどろしいサムネだなとは思っていた。

そんなかわいいもんじゃなかった。この骸骨、さてはこの作品を喰らったオタクの情緒を表してんの????たぶん違う。

 

兎にも角にも書かなきゃと思いました。

言劇ミュージカル『天使のはかりごと』のヤバさ。

 

 

※物語の核心への言及、台詞の引用があります。

その割に内容の整理などを端折っています。

よって全編視聴後の閲覧を強くおすすめします。

 

 

先輩天使の純真

 

「対象に感情移入すると、ロクなことが無いからな」

「正しい冷静な本来すべき判断ができなくなる」

 

こんなふうに先輩は、「人間に感情移入すべきではない」ということを度々口にする。

これは意識して踏みとどまらないと肩入れしてしまうことの表れであって、先輩こそ誰よりも共感度や感受性が高いのでは、と思う。

 

「ロクなことがない」というのは先輩のかつての実体験で、感情移入した結果危険な目に遭って/遭わせて、先輩の先輩にあたる天使に叱られたり諭されたりした経験とかありそう。

 

この先輩天使を演じたのは立石俊樹さん。

私は立石さんの、感情の温度が細やかにのる歌声が本当〜〜〜〜に好きで……本人の人柄やお芝居の持ち味に加えて、その歌声をもってしてこの役に当てられてるんじゃなかろうか。

レポートの曲で、心を閉ざした横宮について情感たっぷりに読み上げる(歌う)部分なんか特に、先輩の共感度の高さが窺えるなあと思う。

 

その立石さんが脚本・演出を務めた松崎さんから受けた「先輩はこの世界に長く居るから疲れてる」というディレクションからも、先輩は天使のお仕事に向いてないんだろうなーと思った。何故ならこの作品における天使のお仕事は、〝善なる行い〟ではないから。

 

ロッコ問題に喩えられた通り、大勢のために一人を犠牲にする選択をするものを始め、無慈悲でなければできない仕事もあって。きっと善人であればあるほど、優秀な天使にはなれない。

先輩は人が好いから、天使のお仕事に神経を擦り減らしていたのかなと。

「大丈夫。結びを果たす」「俺はもう死んでるんだよ」あたりの無理して気持ちを押し殺してる感、凄くないですか…………

 

自分がこの仕事に向いていない=優秀な天使ではないことを自覚しているから、相対的に後輩に対しては再三「俺よりもいい天使になれる」というようなことを言ってるように思う。

ただこれは「お前のそういうところが好きだったよ」と若干相反する部分になりうるので、あくまでも自分との比較と、頭が良く要領よく抜かりなく仕事ができる部分に対しての台詞として捉えてます。

上記の台詞は、心のままに対象に肩入れする後輩の姿が自分にとっての理想だったからかなと思うので。まあそれも後輩が先輩に好かれるために繕ってる振る舞いなんだろうけど……なんて恐ろしい子………………

 

人の恋愛を見届けるとわさわさする、その原因は恐らく「愛する」ことへの羨望からだったと思うんですが、転生に関しては天使の仕事からの解放をモチベーションにしていた部分が無意識下にでもあるのかも。

対して「どうしてそこまでして人間に戻りたいんですか?!」と問い詰める後輩は、それが先輩を引き止めるためだとか、堕天に向けたレールを敷いてるだけだとしても、人間に戻りたいという先輩の気持ちは本当にわからなさそう。優秀な彼は恐らく、天使のお仕事をするのがそこまで苦ではないので。

 

優しさを無理に抑え込んでいて、そんな日々に疲弊している愛したがり──この時点でもういっぱいいっぱいなくらいメロいんですが、

「じゃあお前はどうしてほしいんだよ」の駄々っ子に手を焼く兄感とか、ちょっと言葉遣い荒めなところ、後輩におちょくられると巧くやり返せないあたりもとても好き!

 

「好きってお前…………限度があるだろ……!」を聞く限り、生前の記憶は無いにしても天使になって以降にも好意を向けられた経験多そう〜〜〜〜

その経験から大抵の好意はうまく躱せるはずが、後輩から向けられる矢印のクソデカ感情っぷりにたじろいじゃってたらいい。かわいい。

 

 

後輩天使の純愛

 

かわいい顔してやることエグいって、最高〜!!!

 

まず前提として、わたしがここで言う「こわい」は褒め言葉として捉えていただきたい。

 

後輩のこわいポイント、全てが後輩の掌の上だったこともそうだし、後輩ができて初めて知らされるはずの堕天制度について知っていたこと、最後に「先輩の心を一瞬でもざわつかせたあなたを、幸せなまま放置なんてしませんよぉ」と私情でサビ残(サービス残酷業務の略)(ちがいます)をやってのけるところ、愛する先輩さえ観客にして〈かわいい後輩〉を演じ切るところ、どれもこれもなんですが…………

 

〝何もない永遠に 閉じ込められるとしても

 忘れてしまうくらいなら この想いのままで〟

って歌詞あるじゃないですか。

これ、後輩にその気はなくてただ真っ直ぐに愛を歌ってるだけかもしれないけど、ある意味先輩への洗脳になってない……?って思った。

 

転生して誰かを愛したとしても、死んでしまえば忘れてしまう。

実際、横宮が自分の恋人で、死んだ自分への想いにとらわれて心を閉ざしたと聞かされた先輩が歌う「永遠を誓った愛を忘れられる そういうもの」というフレーズには、傷ついているような響きがある。自分が心底求めた愛する気持ちは、忘れてしまうものなのだと。

 

そこに後輩が歌う。転生したら忘れてしまう愛も、堕天すれば永遠になるのだと。

これを聴いた愛したがりの先輩が、心を動かされるのはなんか、分かる。

「好き」って言われて「(自分も好きになるのは)時間の問題だと思う」ってなるの、先輩若干チョロくないか?と思わないこともないんだけど(それも先輩の包容力だと言われればそう)、永遠の愛に惹かれた部分もあるって考えると腑に落ちるな〜という。こわい。

 

どんなに謀ってでも先輩を自分だけのものにしようとする後輩だけど、先輩を愛する気持ちに嘘はないあたり、松崎さんの仰る通り〈純愛〉なんだなと思う。

 

その愛の強さを象徴する「誰にも永劫渡さない」という歌詞、この対象は曲を通して表面上変化してるように感じた。

1回目(告白時)は「愛する気持ち」、

2回目(成就時)は「愛する人」。

表面上、と書いたのは、最初から後輩は先輩と一緒に堕天する計画だったから、告白時点で既に先輩を「誰にも永劫渡さない」と宣言してたんだろうなと。こわい。

 

このこわくてかわいい後輩、作品についてキャストと脚演交えて語る生配信の中でも「本当に天使なのか?」「既にもう堕天使なのでは?」と色んな解釈が飛び交っていました。

 

わたしとしては後輩は本当に先輩より後に来た後輩天使で、天使になりたての頃はインパクトの大きい仕事でやりがいを感じたい、手柄を立てたいというような健全な思考の持ち主だったのが、先輩に傾倒するにつれて歪んでいったのだとしたらかなり癖。

好意が行き過ぎて狂う人間を意図せず生み出してしまう推し(わたしは立石さんのファンなので、ここで言うところの先輩)を見るのが好きなので・・・

 

 

はかりごとが導く結び

 

この二人の結末についても、様々な解釈ができますよね。

先輩は後輩の「はかりごと」を知らないままでいられるのか、知ってしまったとして愛し続けられるのか、そもそも本当に二人は「共に堕ちる」ことができたのか……

 

「お前に嘘はつきたくなくてな」と言っていたように、誠実であることが愛情表現の先輩と、

相手を騙してでも手に入れることが愛情表現の後輩。

 

先輩の言う「罪」=天使のお仕事を放棄すること(堕天を「罰」と称しているので)

後輩の言う「罪」=先輩を陥れること(罪であることは認識しているけど罪悪感はない)?

 

……と、考えれば考えるほど、二人の走るレールは永遠に交わらないような気がしてしまう。

けれど先輩天使の純真と、後輩天使の純愛は、秤の上で釣り合った。

これも一つの結ばれ方。「たぶん」断トツハッピーエンド、なんだと思う。

 

 

ところで一個疑問が残っているんですが……

 

〝永遠に 永遠に 語らう時間があるとして

 永遠に 永遠に 語ることがあるだろうか〟

 

ここの解釈がまだできていないんですよね〜、、

「永遠に語らう時間がある」のは堕天する二人のことだと思うのだけど、そこに「永遠に語ることがあるだろうか」と続くのは一体どういうことなのか。

 

「語る」と「騙る」を掛けてる?とも思ったけれど、あまり意味が通らない気がするので……うーん…………

 

こういうことなのでは?というお考えをお持ちの方がいらっしゃれば、是非お聞かせ願いたいです!

 

 

とりあえず考えたことを書き散らかせて満足です。感情の迸るまま書いた結果、まとまっておらず読みにくい文章ですみません。

 

松崎史也さんのつくる世界で推しが天使を演じる、という時点で期待100%だったのですが、こんなにも狂わされると知ってたらもっと身構えて耳を傾けたのに…………知っててもどうせ狂ってるか。

 

この作品、特に容姿の描写に関して、先輩も後輩も演者に寄せに行っている印象はあったけれど、舞台にのせず音だけで繰り広げる40分尺の芝居だからこそ出来た話なんだろうなあと思っていたので、松崎さんが舞台化を見越して書かれていたというのはちょっと意外でした。

でもそう言ってもらえたからには、是非とも彼らの天使のお仕事に文字通りお目にかかりたい!池袋の良きところで(ここ重要)上演いただければ幸いです。欲を言えば音源が欲しい!!!

 

というわけで最後にセトリ置いときます!

全曲名を書き出して教えてくれたしごできエンジェル佐奈ちゃん、

そしてこの素晴らしい楽曲たちを生み出してくださった浅井さやかさんに感謝!!!

 

【M1】天使は計る

【M2】レポート:横宮悠貴について

【M3】レポート:華苗麗奈について

【M4】為すべきか降りるべきか

【M5】天使の告白

【M6】共に堕ちる